研究概要 |
本研究では,従来の光デバイスの動作限界を大幅に打破るデバイス原理として,新たにキャリアの活性領域注入過程であるエネルギー緩和の精密な量子構造による制御機構を創出し,高性能デバイスの実現を目指している.その実現に向け,1.キャリア散乱・注入制御の詳細な原理・理論モデル構築と本手法の限界特性解明,2.デバイス試作に必要な半導体結晶成長技術の確立,3.デバイス試作に基づく現象の実験的検証とデバイスの実証について今年度の研究を推進し,以下の成果を得た. 1. に関しては,キャリア緩和特性を個々のエネルギー状態に基づき考慮した光デバイスの動作モデルをもとに数値解析を行い,半導体レーザにおいて緩和特性を早めることで高出力化が可能となり,変調の帯域拡大が可能になることを指摘した.また,緩和を制御する構造として,GaNAsを用いた新構造を提案しその特性の解析を進めた.また,半導体光増幅器において,信号出力に生じるパターン効果を抑制する構造としてトンネル注入構造を適用することを提案し,その数値解析モデルを構築するとともに,構造による特性の変化を解析し,十分なキャリア蓄積と信号入射に適切に応答するトンネル確率とすることで,大幅にパターン効果を抑制できることを示した.さらに,利得変調方式による半導体レーザの高速変調特性の数値解析により,その特性を明らかにした. 2. に関しては,AlGaAsおよびGaInAsを用いたトンネル注入構造の形成に向け,高品質な半導体結晶を形成する条件の把握を進め,GaInAsのみで形成した構造と同等の発光特性の結晶形成条件を得た. 3. に関しては,2.で形成した半導体を用いて半導体レーザを製作し,レーザの基本発振特性を評価した.レーザ発振は得られたものの,変調特性評価や光増幅器の評価を行うには発振特性が十分ではなく,今後の改善が必要であることを確認した.
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