研究概要 |
超微細化Si MOS素子やトンネリングFETなどのナノ構造デバイスにおける輸送特性を予測・再現するために,電子の波動性を厳密に取り入れることのできる非平衡グリーン関数(Non-Equilibrium Green's Function : NEGF)法に基づきさらに素子の構成原子の個性を記述できる原子軌道展開を利用した多バンド強束縛近似法を取り入れた3次元の量子輸送シミュレータに対して,電極部分及びチャネル部分での不純物散乱,フォノン散乱を取り入れ,高速で高効率な計算を行うべく,擬スペクトル法を改良した手法を用いたシミュレータを開発した.将来のトランジスタ構造であるSi Nano-Wire (SNW) MOSFETの特性解析を行った。 特に,以下の2点を手法として取り入れることが可能となった。 (1)ブリッジ関数擬スペクトル法(BPSM)を用いた多バンド強束縛近似法によるSi薄膜の電子状態の解析 (2)ブリッジ関数擬スペクトル法(BPSM)を用いたsp3s*d5多バンド強束縛近似非平衡グリーン関数(Multiband Tight Binding NEGF : MTB-NEGF)法とPoisson方程式とのセルフコンシステント計算に基づく歪を取り入れたSNWMOSFET特性の解析 BPSM法を用いることにより,従来のsp3s*d5強束縛近似法よりも70倍高速な計算が可能のなることが明らかになった.結果としては,量子細線(SMW)構造では,バルク構造とは異なり,上下方向の量子閉じ込め効果により直接遷移型バンド構造になり,細線断面積が増すにつれてバルクの間接遷移型に近づくことが明らかになった。 一方,BPSM法を多バンド強束縛近似NEGF法DGMOSFETの解析に適用した結果,計算速度は50倍高速に,計算精度は従来の有限差分近似に比べて同じメッシュ数にて比較すると5桁向上することが明らかになった。この手法を細線内に欠陥のあるSNWFET構造の電流電圧特性の解析に適応した結果,欠陥の存在は電子をキャリアに用いるn-MOSFETでは電流値に数%の減少しか及ぼさないものの,正孔をキャリアに用いるp-MOSFETでは,数十%の電流減少を引き起こすことが明らかいにされた。これは,欠陥の存在により,価電子帯の有効質量が大きく変化することから説明ができる。
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