研究概要 |
本年度の研究では,量子細線トンネルFET,超微細化MOS素子,グラーフェンナノリボン(GNR)デバイスにおける量子輸送特性を予測・再現するために,電子の波動性を厳密に取り入れることのできる非平衡グリーン関数(Non-Equilibrium Green's Function: NEGF)法に基づいて,素子の構成原子の個性を記述できる原子軌道展開を利用した多バンド強束縛近似法を取り入れた多次元の量子輸送シミュレータを開発した.将来のトランジスタ構造であるIII-V属/Siヘテロ量子細線Nano-Wire(NWM)MOSFETやGNRデバイスの特性解析と設計をすることを目的としている.以下の4点を手法として取り入れることが可能となった. (1)多バンド強束縛近似法によるSi細線の電子状態の解析 (2)多バンド強束縛近似法によるGNR細線の電子状態の解析 (3)スペクトル法をNEGFおよびPoisson方程式に適用した場合のシミュレーションの高精度高効率化 (4)sp3s*d5多バンド強束縛近似非平衡グリーン関数(Multiband Tight Binding NEGF: MTB-NEGF)法とPoisson方程式とのセルフコンシステント計算に基づく歪を取り入れたMOSFET特性の解析 Si MOSFETチャネルのような量子細線構造のバンド構造をsp3s*d5強束縛近似法によって解析すると,量子閉じ込め効果により直接遷移型バンド構造になり,細線の厚みが増すにつれてバルクの間接遷移型に近づくことが明らかになりまた,別途第一原理法による結果と一致することから本手法は,薄膜バンド構造を精度よく再現できる簡便な手法であることが分かった.一方,多バンド強束縛近似NEGF法をトンネル型ヘテロ接合量子細線MOSFETの解析に適用した結果,III-V属化合物半導体の伝導帯からSi価電子帯へのトンネル効果を利用すると,他の組み合わせに比較してオン電流の増大,サブスレッショルド特性の改善が見込まれることが明らかにされた.これは,細線構造にすることで,両者のバンド構造が近づき,トンネル時の複素伝搬定数(複素バンド構造)の大きさが小さくなることが主因であることが分かった.
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今後の研究の推進方策 |
微細デバイス構造中の散乱機構を考慮した非平衡量子輸送デバイスモデリング MOS FETにおいて素子長が25nm以下の場合に有極性光学フォノン散乱,界面ラフネス散乱,不純物散乱,離散的不純物分布がもたらす効果およびチャネル伝導方位の効果を前年に拡張した~TB-NEGF表式に取り入れ,現在2次元で行っている量子輸送デバイスモデリングの精密化を行い,ドライブ電流の増大化が可能なデバイス構造の探索を行う.この際,厳密な散乱の自己エネルギーを取り込んだモデルと実験で得られている移動度に則した経験的な散乱モデル(Buttiker Probe Model)[3]との比較検証を行う.同時に,提案されているMOSFET構造のうち将来性が見込まれる二重ゲート構造(DGMOSFET)およびその拡張構造について,素子全体をゲートが覆うGAA(Gate All Around)構造や羽根型(FINFET)等の特性比較を行い,最適設計を行う。
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