本年度はダイヤモンドpn接合の高品質化による電子放出効率の向上、電子放出の表面状態依存性に関して実験を行った。反応性イオンエッチングされた単結晶ダイヤモンド{111}基板表面に結晶性を重視して2ミクロン程度のn型ダイヤモンド薄膜を形成後、500nmのp型層を形成した。メサ構造加工によりダイオード形成を行い、超高真空中において電子放出特性の測定を行った。その結果、電子放出効率は3%以上の高い値を示し、動作電圧領域によっては10%を超える値も得られた。ダイオード特性は極めて優れており、逆方向リーク電流は50Vにおいて1fAの測定限界以下であった。ダイオード特性と電子放出効率の向上が密接に関連することが明らかになった。電子放出の環境依存性に関しては、水吸着の影響を調べた。水を強制的に吸着させたpn接合からの放出電流の温度依存性を測定した結果、250℃程度に加熱して吸着水の脱離が顕著になった時点でエミッション電流は初期状態付近まで回復し、同時に放出電子のエネルギー分布も元に戻った。水吸着時は電子放出表面で0.3eV程度の上方バンドベンディングを示す結果が得られ、この障壁により電子放出が阻害されることが分かった。また、放出電子のエネルギーはp型ダイヤモンド表面のフェルミ準位を基準とした場合、4.2eV程度であることが分かった。これは電子が弾道的ではなく伝導帯底に沿ってドリフトし放出表面の電子状態密度分布に落ち着いた後に放出されていることを示す。
|