生物系の時間発展システムに物理的なフィードバックを与える複合システムを構築し、「潜在的に方向性をもつた時間発展揺らぎ」を研究すべく、本年度は実験系の構築と予備実験およびフィードバック数値シミュレーションを行った。 実験系として正立型光学顕微鏡をベースとし、それに縮小パターン光投影系を組み合わせた「光-微生物フィードバックシステム」を構築した。微生物の光反応を引き出すに足る光強度を縮小投影系で確保できた。対物レンズ10倍を基本として投影パターンの全エリアが2-3mm角になるようにできた。ビデオ観察装置を導入し、微生物の光反応を連続記録できるようにした。フィードバック制御のためのソフトウェアを既存のPCベースで開発した。構築した「光-微生物フィードバックシステム」の基本性能を、対象微生物として選定したユーグレナ(和名ミドリムシ)を使って調べた。光を照射した場合のユーグレナの基本反応(光照射を行うと遊泳速度が約10分の1に減少するなど)を実験から抽出した。 実験から求めたユーグレナの光反応をモデル化し、フィードバックのモンテカルロシミュレーションを行った。16枝の閉じ込め構造を仮定し、各枝内のユーグレナの速度和を状態変数とした。ニューロコンピューティングのアルゴリズムによってフィードバックを行うと、簡単な問題(4-8-都市巡回セールスマン問題)が解けることがわかった。フィードバック系は複数ある最適解のうちのいくつかを遷移する振る舞いを示した。その遷移の要因としては状態変数の統計的な揺らぎとフィードバック不安定性であることがわかった。粘菌を用いた同様の実験との比較を行い、生物としての方向性がどのようにフィードバック系に反映されているのか検討した結果、光に対する順応あるいは忌避エリアの構築が重要であることが判明した。
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