石油価格の高騰を受け、北アメリカやメキシコではこれまで採算性が悪く利益の出なかった油井が見直される状況にあり、新規油井開発のための効率のよい地下資源探査技術の開発は急を要する。SQUID磁気センサは低周波において超高感度特性を示すので、これを用いて石油やガスなどの天然地下資源を探査するための低磁場NMR(核磁気共鳴)装置を開発することを目的とした。我々はこれまでにSQUID磁気センサを用いた基礎実験でNMR信号を得ているが、微弱な地磁気(50μT)中でのNMR信号を得た経験がなかった。そこで従来型のインダクションコイルを用いて、地磁気中で実験を行った。室内では地磁気の不均一性が問題となるので、初期では50m秒程度と短い時間の自由誘導減衰信号(FID)しか得られなかったが、マックスウエルコイルおよびゴーレイコイルを作製して、磁場勾配を補償できるようにした結果、1秒程度の長い信号を得ることができるようになった。この知見を元に、磁場補償コイルを設けて、分極磁場を30mT程度印加して巨視的核磁気モーメントを配向させることができるSQUID NMR装置を試作した。その装置を用いて、地磁気程度の大きさの磁場中で水を試料としてプロトンからのFID信号を観測したところ、数100m秒以上の信号を確認することができた。また、これまで信号は100回以上加算しなければ十分な信号雑音比が得られなかったが、今年度は数十回の加算で明瞭な信号を得ることができるようになった。 強い磁場で分極すると信号が大きくなることがわかっているが、今のシステムではSQUIDにその磁場が鎖交することは避けられないので、SQUID磁気センサと計測部を分離することが必要である。現在、磁束トランス用いて信号を伝達する実験を行っており、共振を利用して信号の伝達効率を高めているが、まだQ値が小さいので、引き続き次年度以降、これを増大することを検討する。
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