研究概要 |
本研究では,脳卒中の運動機能回復を運動学習の側面で捉え,脳波(EEG)と機能的電気刺激(FES)を組み合わせた,運動意図を反映できるリハビリテーションシステムの構築および検証を行った.運動意図情報として事象関連脱同期(ERD)を使用した. 脳卒中患者1名(男性,年齢=55歳,発症後30ヵ月経過)で実験を行った.被験者は脳幹部位に梗塞があり,左半身にマヒが生じている.リハビリテーションでは足首の背屈運動に重要な前脛骨筋を対象として訓練してきているが,事前評価ではほとんど筋駆動をできない.タスクはマヒ側前脛骨筋運動に伴うERD検出の有無を,ディスプレイ画面上のbarの高さおよび前脛骨筋に添付したFESの出力値変更により,患者に500msecずつ更新し提示した.1回1分間のタスクを計20回行わせた.EEG-FESシステムによる訓練の前後に,足首の背屈運動のみを繰り返しCue提示に合わせて行わせ(計30試行),訓練前後の評価とした. 訓練前は,前脛骨筋を動かそうとしても足首関節は動かせなかった.しかし,訓練後は足首背屈運動が実現できるようになった.また,訓練前後の全30試行分の前脛骨筋EMGを全波整流平滑化後,6秒から9秒間の動作中最大EMGを用い,筋活動を定量的に評価したところ,訓練前後において有意差(p<0.05)があることを確認した. 以上のように,脳卒中患者に提案システム(EEG-FESシステム)を適用したところ,1日20分程度の訓練にも関わらず,全く動かすことができなかったマヒ側前頸骨筋に有意な改善が見られた.回復メカニズムはまだ不明であるが,運動指令とそれに伴う感覚フィードバックを組み合わせることにより,脳内において運動学習による神経可塑性を進行させたと予想され,提案システムの有用性が示唆された.
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