研究概要 |
近年,老朽化した構造物に対して適切に維持補修を行い,ライフサイクルコストの低減を図ることの重要性が非常に高くなり,様々な構造物の非破壊診断手法の研究・提案がなされている。本研究は最も簡易な非破壊検査の一つである打音法に着目し,従来の打音法の作業効率を飛躍的に向上させることを目的に開発された「回転式打音法」を用いた診断システムの開発を目指すものである.平成22年度は,実橋梁を対象として,浮き・剥離が認められる箇所に打音検査を行い,欠陥の有無が打音に与える影響について実験的な検証を行うとともに,打音の変化が小さな音圧データの有効な評価法としてSOM(Self-Organizing Maps)を用いた基礎的な検討を行った.平成22年度に行った研究により得られた成果を以下に示す. (1)実橋調査において,浮き・剥離が明確な箇所では打撃力と計測音圧の比率(出力感度)で欠陥の程度が把握できることがわかった. (2)打音の変化から欠陥の検出が困難(損傷度が小さい)な箇所においても,全箇所で計測される卓越周波数帯データ(材料・構造条件固有データ)を除去し,着目周波数帯を限定した打音データにSOMを適用することにより,欠陥箇所と健全箇所の判別が可能であることが確認できた. (3)周波数スペクトルに実効値比を乗じて得られたスペクトルを入力データとして用いたSOMによる結果(自己組織化マップ)によって,劣化種別・劣化度の評価が可能であることが推察された.今後,種々の欠陥状態の打音データを蓄積・診断することで,上記(3)の手法による診断精度を実用レベルに向上させることができるものと考えられる.
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