2009年度は、計画に沿って、荒川および黒部川で草本類および木本類の生長観測と、特に荒川においては2007年9月の洪水後のヤナギ類およびニセアカシアの再生長の状況を調査した。以下にその成果を記す。 黒部川の観測成果:黒部川においては毎年1度程度、出平ダムおよび宇奈月ダムからダムに堆積した砂を下流に排砂する操作を行っている。この砂は下流の砂州に堆積している。観測の結果、ここに堆積した砂の粒径は元々の堆積土砂よりも遥かに細かく、また、含有する有機物、窒素、リンの濃度はダム湖内に堆積したものとほぼ同程度のものであった。さらに、過去のデータと比較すると、排砂後、ほぼ排砂量に比例して、標高の高い場所にはアキグミ、低い場所にはカワヤナギが萌芽し、これが、黒部川の樹林化の原因であることが判明した。また、安定同位体比の結果より、アキグミにおいて空中窒素起源の窒素の割合が低くなっており、窒素固定のためのエネルギー消費が低下していることがわかった。これにより、排砂による窒素が樹林化に大きく寄与していることが明らかになった。 荒川においては、2007年9月の洪水後、倒伏した樹木からの萌芽、地面からの萌芽が多数観測された。あおのため、まず、本年度はその萌芽数の全数を計測し、その割合を、過去のデータと比較して、水面からの高さに応じて整理した。その結果、標高の高い場所(通常の水面から3m以上)ではニセアカシアの萌芽が多く、標高の低い場所(通常の水面から3m以下)の場所ではヤナギ類の萌芽が多くなっていることが明らかになった。しかし、いずれにおいても、樹木密度がある数になると萌芽率が急激に減少することがわかった。 また、リターが窒素還元に及ぼす影響を把握するため、リターの多い場所と少ない場所に関して、土壌中の窒素濃度を比較した。その結果、リターの多い場所の方が栄養塩濃度が明らかに高いことが示され、リターを介した窒素循環が樹林化・草原化に影響を及ぼしていることが示唆された。
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