本研究課題では、樹林化の原因には土壌栄養塩が大きくかかわっているという仮説に基づいているが、一方では、ダム建設等による洪水特性の変化が原因ではないかという指摘がある。そうした点を明確にするために、河川の樹林化を生じさせる最も重要な因子の抽出を行った。全国の1級河川を対象に、過度に人工的な影響が出ていない代表的な区間をいくつか選び出し、航空写真より、植被率を求めた。次に、データベースより、流域面積、流量変動、水中栄養塩濃度、堰の密度等とを読み取り、植被率との相関を計算した。その結果、全体的に植被率ともっとも相関が高いのは、栄養塩濃度であり、堰に関しては下流5kmが影響を受け、洪水の頻度や強度との相関はほとんど見られなかった。特に、関東や近畿の河川で植被率が高く、流量変動の少ない北海道では最も低くなっていた。さらに、いくつかの河川での測定結果から、砂州上の土壌中の栄養塩濃度は水中の栄養塩濃度と高い相関がみられた。以上のことから、河川の藪化・樹林化に対しては、砂州土壌の栄養塩濃度が大きく影響していることが得られた。次に、荒川、黒部川等4のくつかの観測地において、観測によって草本類バイオマス量と土壌中の栄養塩濃度との相関を求めた。さらに、これまでの観測結果も合わせて、草本類バイオマス量と土壌窒素濃度との関係を調べると、草本類のバイオマス量は、土壌中の窒素濃度と高い相関があり、窒素濃度0.02%(w/w)までは、窒素濃度のほぼ4乗に比例して増加し、以降はほぼ横ばいになることがわかった。また、荒川熊谷砂州において、砂州を横断するトランゼクトを設け、草本類バイオマス量、土壌粒径、栄養塩濃度、樹木による天空率を求め相関を求めた。その結果をもとに、草本類バイオマスを、栄養塩濃度、土壌粒径、樹木密度の関数として戸見積もる経験式を提案した。
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