本研究では、干潟堆積有機物の分解過程におけるバクテリアの炭素、窒素安定同位体比を分析することで、バクテリアが同化している有機物起源を推定した。あわせて分解過程における堆積有機物の脂肪酸組成の経時変化を分析することで、どの生物に由来する有機物を分解しているかを明らかにし、干潟に堆積する有機物の分解特性を考察した。 堆積有機物および食物源候補である陸上植物、海洋粒状有機物、河川粒状有機物および底生微小藻類は、蒲生干潟および七北田川河口より採取した。安定同位対比により陸上植物(δ13C=-26.6、δ15N=3.6)および河川粒状有機物(δ13C=-25.5、δ15N=8.9)は、底生微小藻類(δ13C=-16.3、δ15N=6.2)および海洋粒状有機物(δ13C=-20.3、δ15N=10.3)と明確に区別できた。 干潟堆積物をアクリル製コアーサンプラーによって採取し、そのコアーを押し上げて表層堆積物0.5cmを採取し実験室に持ち帰った。そして、採集した堆積物を全て混合しシャーレ(直径10cm×高さ1cm)に高さ0.5cmまで入れて暗室で分解実験を行った。 50日間の堆積有機物の分解実験において、堆積有機物のδ13C値は-19.1 ‰から20.7 ‰に減少した。この理由はバクテリアがより高いδ13Cを有する有機物、すなわち底生微小藻類および海洋粒状有機物を優先的に利用するためと考えられた。また脂肪酸をバイオマーカとした解析から陸上植物および河川粒状有機物は、底生微小藻類および海洋粒状有機物の分解が進行した後に分解し始めることが明らかとなった。
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