研究概要 |
本研究では,脂肪酸-安定同位体比分析というツールを用いて,底生微細藻類のはたらきが干潟に生息するバクテリア群集に与える影響,さらに,それが底質環境に与える影響について検討した. 七北田川河口干潟から底質の表層5mmを採取し,現地水も合わせて採取し持ち帰った.実験室で内径105mm×高さ25mmのシャーレーに堆積物の深さが5mm程度,現地水を堆積物の直上5mmとなるように注入し,これを培養試料とした.そして明培養系では培養期間中照度5,000luxの光を照射し続けた.暗培養系ではシャーレ周囲をアルミ箔で覆って遮光した.温度を20±1℃に保ちて48日間の培養を行い,所定に培養期間で底質試料を回収し,TOC,クロロフィルa,脂肪酸組成,脂肪酸-安定同位体比を測定した. 明培養系(底生微細藻類の生育する系)・暗培養系(底生微細藻類の生育しない系)の有機物フローを全有機炭素TOCの動態からまとめると、まず干潟デトリタスの大部分は難分解性でありほとんど分解されないこと、よって暗培養系における有機物フローの経路は底生微細藻類からバクテリアへ向かう流れのみであること、底生微細藻類の光合成は干潟デトリタスの分解にほとんど影響を及ぼさないことがわかった。しかし、脂肪酸動態の結果より,底質中にわずかに含まれる比較的難分解有機物である長鎖脂肪酸LCFAsは底生微細藻類の光合成により分解が促進されること、また,脂肪酸-安定同位体比の結果よりLCFAsの分解が促進された結果,LCFAs由来のCO_2が放出され,それを底生微細藻類が光合成に利用するという新たな炭素循環が生じていることがわかった.すなわち,明培養系においては底生微細藻類が光合成を行い,微生物ループが駆動されることによってバクテリアによる無機化が促進されることで物質循環が活性化した生態系が形成されていると考えられた.
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