研究概要 |
水環境中における抗生物質等の医薬品類の存在は,人の健康問題と関係する薬剤耐性菌の発生にも関与することが懸念され,水環境中における医薬品類の動態や薬剤耐性菌による水系汚染の実態を明らかにすることは重要であると考えられる。そこで本研究では,水環境中における抗生物質および抗ウイルス剤の動態を明らかにするとともに,薬剤耐性菌による水系汚染を明らかにし,抗生物質濃度や下水処理水等の流入と薬剤耐性菌の存在との関連について考察することを目的とする。平成23年度は,水環境中における薬剤耐性大腸菌の存在実態を調査し,その分布を把握するとともに,河川および下水処理場等から単離した大腸菌に対して複数の薬剤の感受性を調べ,多剤耐性菌の割合を把握した。 桂川を対象とした河川流域での調査では,アンピシリンとスルファメトキサゾールの耐性菌は河川水中でも流下過程において存在量を維持したまま流下することが示唆された。これは,河川水から高い濃度でアンピシリン耐性菌が検出されていることと関係する可能性がある。また,下水処理場における調査結果から,下水処理過程において多剤耐性菌の割合が増加する傾向が見られた。病院排水を対象とした調査では,水域に直接放流されている病院排水は,環境中への薬剤耐性菌の排出源となっていることが示された。さらに,水環境中から単離した大腸菌についてβラクタマーゼの存在を調べたところ,河川水,下水処理水および病院排水から基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)等を産出する菌が検出された。このことから種々のタイプのβラクタマーゼを生産する多剤耐性菌が環境中に広く分布していることが明らかとなった。
|