研究概要 |
大地震時の人命保護の立場から柱に要求される最低限度の性能は,軸力を保持することである。過去の大地震では,旧基準によって建てられた鉄筋コンクリート(RC)造柱がせん断破壊し,ついには軸力保持能力を喪失して崩壊するという被害が数多く見られた。これら旧基準のRC建物の耐震性を評価するうえで重要なのが,柱の崩壊過程や崩壊時の変形について把握することである。 地震のような水平力により柱にせん断破壊が生じ,鉛直変形が増大すると,その柱にかかる軸力は梁を介して他の周辺の健全な柱へ移動し,周辺の柱や梁が軸力を負担することによって軸力は減少する。しかし,このような軸力の減少を考慮したRC柱の崩壊実験はほとんど行われていない。そこで,本論では軸力の減少時においての挙動を調べることを目的とし,柱の軸力が一定の場合と減少する場合の比較,考察を行う。 試験体は計7体であり,すべて実大とした。柱断面寸法(b×D)は450×450mmで全試験体共通とした。内法高さ(h_0)は900mmと1400mmとし,クリアスパン比(h_0/D)は2.0と3.1の2種類とした。主筋比P_gは1.70%,せん断補強筋比P_wは0.21,0.16%の2種類とした。 軸力の減少は鉛直変形の増大によって生じると想定されるため,鉛直方向の縮み量が大きくなる崩壊寸前の点において軸力を減少させることを原則とした。実験は最終的に柱が崩壊するまで加力した。 得られた主な知見を以下に示す。 軸力を減少させた柱は,一定軸力のものに比べ,崩壊水平変形が大きくなる。また,軸力を減少させる度合いが大きくなるほど,崩壊水平変形が大きくなる。具体的には,75%まで軸力を減少させると,崩壊水平変形は2.9倍となる。50%程度まで軸力を減少させると,崩壊水平変形は5倍程度となる。20%まで軸力を減少させると,崩壊水平変形は10倍以上となる。
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