本研究は、宮殿建築とその空間をそこで行われた儀式を通して理解することを目的として実施したもので、特に中国を中心とする東アジアの宮殿儀式の比較研究を、福田美穂台湾師範大学助理教授、Phan Thanhhaiフエ文化財保存センター所長、Cho Jaemo慶北大学准教授の3名の協力を得て実施した。研究期間中に即位・政務・皇子誕生・葬儀・祖先祭祀・宗教儀礼に関する研究を、研究代表者川本重雄と3名の海外研究協力者がそれぞれ日中韓越四国を取り上げて行い、その研究発表及び討議1年に二回程度実施した。また、元日の朝賀・宴会については互いの資料を交換した後、比較研究をテーマに互いに研究発表を行い、その研究成果を報告書『New Year’s Day Audience and Banquet in the East Asian Palace』としてまとめ公表した。 従来、東アジアの宮殿やそこで行われた儀式については、中国の王朝の宮殿や唐代の儀式書『大唐開元礼』の影響が非常に強いと考えられていたが、比較研究という研究手法の性格のためか、共通点よりもむしろ相違点の方が目立つこととなった。例えば、朝賀の空間では皇帝(天皇・王)の座が設けられる正殿、皇太子や官吏の代表が拝賀を行う殿上、官吏が整列する殿庭、儀式開始までの待機場所である門外の四つの空間で構成される点が唐・古代日本・朝鮮王朝の原則であるが、ベトナムフエの王宮の朝賀空間に殿上に相当する空間がない。また、元日宴会を行う場所は、唐と朝鮮王朝では朝賀を行った正殿・殿庭などが利用されるが、日本とベトナムでは朝賀とは全く別の場所が宴会場となる。 式次第では、朝賀の時の入場・退場の順序において日中韓で差が見られるほか、韓国の朝賀において代致詞官・伝教官が賀詞や教(王の詞)を必ず取り次ぐ点が大きく異なる。宴会の次第は、日中韓で様々な違確認できた。
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