我が国は65歳以上の高齢者比率が現状で20%に迫り、20年後には30%を超える勢いを見せている。高齢社会では骨疾病患者の急激な増加が予測されるため、人工関節等の生体代替材料開発や、骨粗鬆症等の骨疾患改善・予防法の確立が望まれる。そのためには、生体骨の無機成分であるハイドロキシアパタイト(化学組成Ca_5(PO_4)_3OH、以下HAPとする)の化学的安定性とそれに対する微量不純物・ドーパントの役割といった、骨形成の起源に関わるナノレベル因子についての基礎的理解が必要不可欠である。 本研究では、HAP中の点欠陥および微量金属ドーパントのナノ構造に着目し、炭酸イオンおよび金属ドーパントの固溶メカニズムや固溶限を理論計算および系統的モデル実験により検討する。特に理論解析では、独自に開発してきた水溶液環境依存性を考慮した第一原理計算と点欠陥熱力学を組み合わせた手法を用いるのが特徴である。 本年度は純粋HAPへの金属イオンの置換固溶能を系統的に調べた。その結果、ドーパントの固溶エネルギーは金属イオンのサイズに依存することが判明した。また、Zn^<2+>やMg^<2+>などの生体活性能向上ドーパントは大きな固溶エネルギーを示し、理論上、完全結晶への固溶は困難であるとの結果を得た。
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