我が国の高齢社会化はますます進んでいく傾向にあり、これに伴い、骨疾病患者の急激な増加が予測される。したがって人工関節等の生体代替材料開発や、骨粗鬆症等の骨疾患改善・予防法の確立が望まれる。そのためには、生体骨の無機成分であるハイドロキシアパタイト(化学組成Ca5(PO4)30H、以下HAPとする)の化学的安定性とそれに対する微量不純物・ドーパントの役割といった、骨形成の起源に関わるナノレベル因子についての基礎的理解が必要不可欠である。 本研究では、HAP中の点欠陥および微量金属ドーパントのナノ構造に着目し、炭酸イオンおよび金属ドーパントの固溶メカニズムや固溶限を理論計算および系統的モデル実験により検討する。特に理論解析では、独自に開発してきた水溶液環境依存性を考慮した第一原理計算と点欠陥熱力学を組み合わせた手法を用いるのが特徴である。 本年度は炭酸イオン(CO32-)の固溶状態について検討を行った。炭酸イオンの固溶サイトととしてOH-基サイトとPO43-基サイトの2つの可能性が考えられる。またCO32-イオンは平面三角形の形状を持つため、OH-基やPO43-基を置換固溶する場合、結晶方位に対してCO32-平面構造がどの方向を向くかを考慮する必要がある。本研究ではこれを網羅的に計算し、CO32-イオンの最安定固溶構造を明らかにした。また金属イオンおよびCO32-を含むハイドロキシアパタイトのモデル試料を合成し、放射光を用いた)XANES測定したところ、金属イオンとCO32-イオンとの会合構造の可能性が示唆された。
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