本研究では、ハイドロキシアパタイト中の、炭酸イオンおよび金属ドーパントの固溶メカニズムや固溶限を理論計算および系統的モデル実験により検討した。特に理論解析では、独自に開発してきた水溶液環境依存性を考慮した第一原理計算と点欠陥熱力学を組み合わせた手法を用いるのが特徴である。 本年度は炭酸イオン(CO_3^<2->)の固溶エネルギーとその環境依存性について検討を行った。アパタイトは、高温での固相反応による合成、低温での溶液反応による合成が一般的であるが、合成時に空気中のCO_2ガスや水溶液中のCO_3^<2->イオンが結晶に固溶し、生体活性に影響すると考えられている。また固溶するサイトはOH^-基もしくはPO_4^<3->基サイトの2通りあり、どちらに固溶するかは合成温度に依存するとされている。その起源を明らかにするため、第一原理計算で求めた欠陥構造の全エネルギーと化学ポテンシャルを用い、固相一気相化学平衡でのCO_3^<2->固溶エネルギー評価を行った。そり結果、1000℃近傍以上ではCO_3^<2->はOH^-にを置換固溶したときが安定であった。一方で、より低温ではPO_4^<3->基を置換固溶する方が安定であり、実験結果とよい一致が得られた。 また、アパタイト中に置換固溶したCO_3^<2->イオンは、電気的中性条件の要請から、電荷補償欠陥を伴うことが必要である。OH^-基を置換する高温ではH^+空孔が電荷補償欠陥として働くことがわかった。高温では、アパタイトが脱水反応を起こすことが知られており、OH^-基の欠損がCO_3^<2->固溶に寄与していると考えられる。
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