研究概要 |
市販の高純度鉄(板状試料)を湿水素処理し,軽元素不純物(炭素,窒素)の濃度を1mol ppmのオーダーまで低減した.この試料を繰り返し重ね接合圧延(ARB)法によりひずみ5.6まで超強加工し,加工直後の力学特性と微細組織,およびそれらの時効による変化を引張試験,ヴィッカース硬度測定,精密電気抵抗測定,動的弾性率測定(メカニカル・スペクトロスコピー)により調べた.前年度に行った湿水素を施さない高純度鉄(純度99.99%)についての結果と比較すると,湿水素処理により不純物を除いた試料では降伏強度は低く,電気抵抗で評価した欠陥の総密度は低く,回復・再結晶は速いことがわかった. 前年度に引き続いてニッケルについての実験も行った.純度99.99%の板状試料をARB法によりひずみ5.6まで超強加工し,加工直後の塑性変形挙動を引張試験により調べた.鉄の場合とほぼ同様に,加工度が高い試料では強度が著しく上昇し,破断伸びは小さくなった.微細組織を走査電子顕微鏡で電子後方散乱回折(SEM-EBSD)法により詳しく解析し,加工度が低いときは小傾角粒界がほとんどだが強加工するにつれて大傾角粒界の割合が増えてゆくことがわかった.前年度の実験で,ヴィッカース硬度は粒径を反映し,電気抵抗は粒内の欠陥(転位と内因性点欠陥)の密度を反映していることが示唆されていたが,今年度力学損失スペクトルを測定し,欠陥種の同定を試みた.加工した試料の力学損失は複雑なスペクトルとなったが,転位の寄与と粒界による寄与がおおまかに分別できる手がかりが得られた.
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