昨年のルチル焼結体に続き、本年はブルッカイトの薄膜を用いて光誘起親水性とその後の親水性の暗所維持性との関係について、構造面と組成面から調査した。ブルッカイト薄膜は交互積層法により作製し、最表面にはタングステン系のヘテロポリ酸(PW12)を配置した。表面でのWとTiの原子比は約5atom%であり、表面粗さ(Ra)は約9nmであった。300℃で熱処理を行うことによりPW12の安定性が向上し、水に溶解しにくくなった。PW12を最上層に配置した薄膜(TTP)は、配置しない薄膜(TT)に比べ、紫外線照射下での気相中の2-プロパノールの分解活性が向上し、その程度はPW12を配置する位置により違いがみられたことから、ブルッカイトの励起電子に対するPW12のスカベンジャー効果が寄与していることが判った。またTTP薄膜は、TT薄膜に比べ、紫外線照射下での親水化速度が向上し、併せて親水化後の状態の暗所での維持性にも優れていた。高い親水化速度は分解活性の向上によるものと考えられた。TTP薄膜は紫外線照射後に、(1)ケルビン力顕微鏡により得られる表面電位がマイナス方向に移動すること、(2)還元されたPW12の比率が上昇していることがXPSで確認されること、(3)相対湿度10%の窒素雰囲気では同じ湿度のエアー雰囲気より暗所維持性が優れること等から、ブルッカイトからの電子を蓄えて還元状態になっているPW12が存在していることが示唆され、そこに水が吸着しているために暗所維持性が得られることが考えられた。PW12の大きさから考えて約1nm程度の親水点が表面に点在している構造となっていることが予想され、このような構造が酸化物の親水性維持に対して効果的であることが示された。またこのような親水点は表面での水滴の移動にも影響を与え。その効果は移動開始時と移動中とでは異なることも明らかにした。
|