本研究では、アルカリホウケイ酸系を中心とした分相ガラスに、発光中心としてCu^+イオンをCu^+-Cu^+クラスタの形で導入し、蛍光ガラス相と保護ガラス相、および光散乱の中心となるそれらの界面を、ナノスケールで複合化させることにより、近紫外光により暖色系の白色発光し、かつ長期安定性・高耐熱性を持つ高輝度発光材料を実現することを目的としている。本年度は、昨年度に引き続きガラス組成の光吸収・発光に及ぼす影響を調査し、発光機構の解明のための指針を得ることを主な研究目標とした。 ガラス組成を、近紫外光励起により比較的高強度かつ安定な黄橙色発光が得られるNa_2O-B_2O_3-SiO_2系分相組成に集中し、還元剤の種類(SnO、 Si、スクロース)および添加量(SnOのみ)を変化させた試料、および発光が期待されるCu以外の種々の遷移金属イオンを添加した試料を、溶融・急冷法により作製した。Cu添加分相ガラス試料およびNa_2O-B_2O_3rich相を酸処理により選択溶解させた試料の紫外-可視吸収スペクトル、蛍光・励起スペクトル測定を行った結果、黄橙色発光はSi、スクロース添加試料では著しく減少した。また、黄橙色発光強度のSnO添加量依存性は小さいのに対し、Cu^+による青色発光とCu^<2+>による吸収には顕著な依存性が認められた。さらに選択溶解試料での黄橙色発光は著しく減少し、Cu^+-Cu^+クラスタがNa_2O-B_2O_3rich相中に存在していることがわかった。一方、Cu^+イオンと同じ外殻電子配置を持つと予想されるAg^+イオンを添加した試料の発光挙動から、2種類のAg^+イオン配位構造が混在し、これら配位環境がガラス組成(分相端組成および体積分率)に伴い変化していることが示唆された。これらの結果より、分相ガラスの組成変化がCu^+イオンの配位環境に及ぼす影響について、さらに調査する必要があることがわかった。
|