日本国内において歯科補綴修復用材料として幅広く使用されている歯科用Ag-Pd-Au-Cu系合金は、溶体化処理を施したにもかかわらず急激的に上昇する特異硬化挙動を示す。このような特異硬化挙動を示す原因として、溶体化処理による固溶強化説および溶体化後の冷却過程に析出する準安定L1_0型規則相(β'相)による析出強化説の二つの説が有力と考えられているが、未だ、明確にはされていない。そこで、本研究では、このAg-Pd-Au-Cu系合金における特異硬化挙動のメカニズムについて検討している。 昨年度までに同系合金のAgとCuの含有量の比を変化させたAg-20Pd-12Au-6.5Cu合金、Ag-20Pd-12Au-145Cu合金およびAg-20Pd-12Au-20Cu合金を用いて特異硬化挙動を示す合金組成について検討し、種々の合金組成の中でもAg-20Pd-12Au-14.5Cu合金において特に溶体化処理による硬さの上昇が大きいことを明らかにしている。本年度は、顕著な特異硬化挙動が認められたAg-20Pd-12Au-14、5Cu合金について、溶体化後の冷却速度を炉冷、空冷および水冷と変化させ、そのミクロ組織と硬さに及ぼす影響について検討した。その結果、冷却速度が大きいほど、冷却時に析出するβ'相が細かく、硬さの上昇が大きいことが明らかとなった。
|