研究概要 |
歯科用Ag-Pd-Au-Cu合金は、機械的性質、耐食性および生体適合性に優れる歯科補綴修復用材料である。一般的に、Ag-20Pd-12Au-14.5Cu合金は、時効強化を示すが、近年、溶体化処理温度を1073K以上まで上昇させることにより、機械的強度が著しく高くなる特異強化挙動が報告されている。本現象の理由として、高温溶体化処理後に析出するL1_0型規則相(β')による析出強化説が挙げられている。しかし、市販用Ag-20Pd-12Au-14.5Cu合金はα_1、α_2、およびβ相で構成されるため、特異強化挙動に対するβ'相の寄与は不明な点があり、そのβ'相の生成メカニズムについては、これまで報告が少ない。そこで、本研究では、高温溶体化処理によるAg-20Pd-12Au-14.5Cu合金における特異強化について精査し、さらにAg-20Pd-12Au-xCu合金における特異強化について調査・検討することにより、本合金系における特異強化メカニズムの解明を目的とした。今年度は、析出相(β'、β)/母相界面を観察し、β相のミクロ組織変化および硬さとの関係を調査・検討を行い、下記知見を得た。 (1)母相とβ相のa軸方向は整合であるが、c軸方向は半整合であるため、β相の周りに歪みが生じ、転位移動に対して抵抗となり、強度が上昇する。一方、β相の場合、β相/母相の界面は不整合であり、β相の周りでは歪みがごく小さいため、転位移動に対してそれほど抵抗にならない。 (2)Ag-20Pd-12Au-14.5Cu合金の計算状態図およびミクロ組織観察により、高温溶体化処理により析出するβ'相の生成メカニズムが明らかになった。また、Ag-20Pd-12Au-xCu(x:13,17,20)合金においても、高温溶体化処理により微細なβ'相が緻密に析出し、特異強化挙動を示す。Ag-20Pd-12Au-6.5Cu合金においては高温溶体化処理により微細なβ'相が析出せず、特異強化挙動を示さない。 これらの知見は、実用上の観点からも学術的な観点からも非常に有用であり、今後、容体化処理を本合金の力学的性能の強化法として普及させる際に、裏付けとなる研究成果である。
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