これまでMo-Si-B合金の凝固経路に関しては、Nunesら(2000)、Katrychら(2002)、Yang & Chang(2005)の報告があるが、各々の間にはいくつかの相違点が見られ、結論が得られていない状況であった。しかし本研究では、これらの問題のいくつかについて明確な結論を得ることができた。まずMo-Mo_5SiB_2の二相共晶点についてであるが、NunesらおよびKatrychらが実験的に得た共晶点と、YangとChangが熱力学計算で得た点には組成にかなりの違いがあった。このことに関して、Mo固溶体、Mo_5SiB_2、Mo_2B各相を初晶とする組成域は概ねYangとChangの熱力学計算結果が正しく、それを実験的に確認した。しかし彼らが言うところの、Mo固溶体とMo_5SiB_2とMo_2Bの初晶域が接する三重点をMo-Mo_5SiB_2二相共晶点とするのは間違いであり、この二相共晶点はMo_2B初晶域に存在することを確認した。したがって通常の溶解・鋳造法では、Mo-Mo_5SiB_2二相共晶点はMo_2B相の凝固を必ず経由することになり、Mo-Mo_5SiB_2完全共晶を得ることは無い。一方、YangとChangの熱力学計算結果で示されるMo固溶体とMo_5SiB_2とMo_2Bの初晶域が接する三重点では、Mo-Mo_5SiB_2二相共晶とMo-Mo_5SiB_2-Mo_3Si三相共晶の2つの領域によって構成されており、初晶の晶出が無いため微細で均質な凝固組織となることがわかった。また三重点から組成が離れるにつれ粗大な初晶が晶出し、凝固組織は不均質となる。特に、Mo_2B初晶域は、Mo-Si-B三元状態図におけるMo-Mo_5SiB_2二相域を一部覆っていることから、固体の平衡状態では存在しない準平衡相が粗大な初晶となって存在する。しかし本研究の結果、1800℃で熱処理をすることにより準安定な初晶を完全に分解させることができることを突き止めた。
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