研究概要 |
ルチルを還元雰囲気中,またはチタン蒸気中で熱処理することによって,絶縁体酸化物中に金属的な電気伝導を示す導電性結晶と同じ組成・結晶構造を有する原子層を挿入することができた.この原子層の挿入量は熱処理条件に依存するが,所望の挿入量を持つ複合結晶を作製する方法を確立した.また,この原子層が挿入された結晶の熱伝導率は,飛躍的に減少し,このような異なる結晶構造を持つ層の積層によって熱伝導率を低下させることが可能であることが示された.この複合結晶の内部組織を原子レベルで観察した結果,例え単結晶のルチルを母材とした場合においても,結晶学的に等価な積層面が複数存在するため複数の異なる方位を向いた積層構造が結晶中に混在することが明らかになった.これにより,量子ホール効果を用いた電気伝導の二次元性の検証は通常の熱処理によって作製した試料では困難であることが分かった.一方,電気抵抗の温度依存性を測定した結果,高温ほど電気抵抗が減少する半導体特性を示したことから,この複合結晶における電気伝導が金属的な導電層のみを通して起こっているとは考え難い.この電気抵抗の温度依存性の結果が,この構造中に金属的な導電層が存在することを否定するものなのか,複数の異なる方位を向いた積層構造に起因する導電層間の電子の受け渡しとしてのホッピング伝導で結晶全体の電気伝導が支配されていることを示しているものなのかは未だ明確では無い.
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