研究概要 |
本年度は,EMC技術及びマイクロ波アンテナ用左手系材料の基礎検討として以下の通り実施した。 1.置換型バリウムフェライトBaFe_<1-x>(Ti_<0.5>Co_<0.5>)_xO_<19>の高周波透磁率について検討し,Feの置換量xを増加させるとx=3付近で低周波領域の比透磁率が最大をとりその後低下すること,および置換によりスピン共鳴周波数は数GHzにまで低下するが,波透磁率スペクトルにおけるスピン共鳴の寄与は小さく,磁壁共鳴が大きく寄与していることを明らかにした。 2.x=3の置換型バリウムフェライトを用いて粒子分散型複合材料を作製し,高濃度複合材料において,10GHz付近の高周波透磁率スペクトルに負の透磁率が出現することを見いだした。 3.金属短繊維配列構造体とフェライトゴム複合材料シートを用いて単層型電波吸収体を設計し,金属短繊維配列構造体の負の誘電率を利用することにより,電波吸収体を2つの周波数で整合させ-20dB以下の電波吸収特性を広帯域で実現することが可能であることを実証した。 4.イットリウム鉄ガーネット(YIG)の磁場下の負性透磁率を用いて,10GHzのパッチアンテナのリターンロス,およびインピーダンスについて検討し,数GHz付近で,パッチアンテナのリアクタンスが相殺され,リターンロスが低下することを見いだした。利得は-5dB程度であるが,これにより,負の透磁率を用いて10GHzのアンテナを数GHzで共振させ,アンテナの小型化を実現できる可能性があることを実証した。また,YIGを装加したアンテナに外部磁界を印加することにより共鳴周波数を変化させ,リターンロスのピーク周波数を制御可能であることを明らかにした。 5.粒子分散型複合材料への応用を目指して,シュウ酸鉄に金属をコーティングしたナノ粒子の合成について検討を開始した。ナノ粒子を用いた複合材料の作製では,材料中に均一に粒子を分散させることが困難であり,これまでの検討ではサブミクロンNi(平均粒径170nm)の複合材料を得るにとどまっているため,あらたに複合材料の作製技術を検討する必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
置換型Baフェライト複合材料において新たに負の透磁率を見いだし,左手系材料への適用可能性を広げたこと,金属短繊維配列構造体の負性誘電率を用いて電波吸収体の広帯域化が可能であることを実証したこと,および,YIG焼結体の磁気共鳴による負の透磁率を用いてパッチアンテナの小型化が実現できる可能性を実証したこと。
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今後の研究の推進方策 |
1.負の透磁率材料については,希土類強磁性体や鉄族合金粒子を用いた金属微粒子複合材料の高周波透磁率をさらに検討し,大きな負の透磁率材料を探索することで,左手系材料への適用範囲を広げる。 2.電波吸収体の広帯域化に加えて,負の透磁率,誘電率を用いた電磁遮へい材についての検討をさらにすすめ,高周波において,磁気損失や誘電損失と負の透磁率,誘電率を利用した周波数選択電磁遮へい材について検討する。 3.負の透磁率を利用したアンテナの小型化については,パッチアンテナを中心に整合周波数を1/10以下にするため,パッチアンテナ等に,数GHzに磁気共鳴による負の透磁率を有するYIG複合材や金属粒子複合材を装加した際のインピーダンス特性をシミュレーションにより検討し,最適な装加位置や材料特性について検討する。
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