太陽光による水素燃料生成と微弱光による有機物分解を目標として、可視光で動作する光触媒材料の探索がすすめられている。当該分野の研究開発において現在日本は世界をリードする立場にある。これからも世界をリードし続けるために、新世代触媒の開発を支える知的基盤を構築することが本研究の目標である。 3年間の研究計画として、電子状態遷移に共鳴させることでラマン散乱強度が著しく増大する現象を利用して、光触媒中に混在する可視光吸収サイト・電子トラップサイト・正孔トラップサイト・助触媒のラマンスペクトルを分離して観測する。2年次である平成22年度は、現有するラマン分光器の改造を進め、波長442nm(He-Cdレーザー)に加えて、785nm(半導体レーザー)を励起源として粉末光触媒のラマンスペクトルを計測する体勢を整えた。窒素と硫黄をドープした可視光動作二酸化チタン光触媒を、横野照尚(連携研究者、九州工業大学)から供与をうけて、可視光吸収サイト近傍の格子振動モードを検出するためのラマン分光測定をはじめている。前年度に整備した蛍光エックス線分光器は光触媒の組成分析に有用であり、焼成過程での揮散によるドープ元素の損耗を定量的に評価できることがわかった。 あわせて、ロジウム(Rh)とアンチモン(Sb)を共ドープすることで可視光応答性を付与したチタン酸ストロンチウム光触媒を工藤昭彦(連携研究者、東京理科大学)から供与を受けて、光励起による過渡赤外吸収スペクトルを計測した。無ドープ体・Rhドープ体・RhとSb共ドープ体の過渡赤外吸収の減衰から、それぞれの光触媒中で励起された電子と正孔が再結合する反応の速度を計測した。電子-正孔再結合の速度が共ドープによって遅くなることを見いだした。可視光吸収と再結合反応抑制を両立する共ドープされたドーパント近傍の格子振動を共鳴ラマン分光によって検出する実験を進めていく。
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