太陽光による水素燃料生成と微弱光による有機物分解を目標として、可視光で動作する光触媒材料の探索がすすめられ、可視光励起による物質変換効率は10年前には考えられなかったほど高い水準に達した。日本が当該分野の研究開発において世界をリードし続けるために、新世代触媒の開発を支える知的基盤を構築することが本研究の目標である。窒素と硫黄をドープした可視光動作酸化チタン光触媒の可視光吸収サイト近傍の格子振動モードを検出するためのラマン分光測定をおこなった。あわせて、クロム(Cr)とアンチモンをドープした酸化チタン光触媒の再結合反応速度を、時間分解赤外吸収を用いて計測した。0.01%から10%まで4桁にわたってドープ量を変化させたところ、再結合反応速度が0.1%ドープ体で最も低下することを見いだした。さらに、紫外光によって高い効率で水を分解して水素を生成するタンタル酸ナトリウム(NaTaO3)にストロンチウム(Sr)を0.1~8 mol%の範囲でドープした光触媒を調製し過渡赤外吸収スペクトルを計測して電子-正孔再結合の速度が1 %で最も遅くなる(光触媒反応に有利になる)ことを見いだした。蛍光発光による妨害を回避する実験手段を確立することが本研究満了後の課題となる。
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