研究概要 |
大気圏に突入する氷天体まわりの極超音速高温流れについて風洞実験および数値解析を行った。風洞実験は前年度に確立した氷模型による実験手法に従い、東京大学柏キャンパスの極超音速風洞(マッハ数7、最高よどみ点温度1000K)にて行われた。高速ビデオを用いた高時間分解能の観測を行うことで、肩の部分での気流急膨張に伴う冷却によってよどみ点部で溶融した水の再凝結が起こり、霜柱状氷が重なり合いながら半径方向に成長して帽子のつばのような形状を作ること、などの現象が明らかになった。十分発達した霜柱状突起の先端から氷が微小片となって飛び出していくスポレーション現象の観察に成功し、大気圏突入氷天体の飛行中における質量損失原因として、氷柱が固体のまま部分的に破砕して飛散するプロセスも重要であることが示された。アブレーションを起こす大気圏突入氷天体周りの化学反応流れについて、原始地球大気の成分が二酸化炭素と窒素の混合であると仮定し、C,H,O,N元素による28化学種モデルを構築した.昨年度開発した粘性衝撃層解析では渦流れが扱えないため、保存形/非保存形ハイブリッド形式による熱化学非平衡ナヴィエ・ストークス方程式の数値解析手法を開発した。それにより、HCNなどの生命前駆物質が氷天体背後の後流でどの程度生成され、大気中に拡散していくかを数値解析することが可能となった。 今年度の研究成果で特筆すべきは、理学系惑星科学の研究者との交流を行ったことである。日本惑星科学連合大会(2010年5月、幕張メッセ)に参加し、航空宇宙工学用実験設備である極超音速風洞が惑星科学においても模擬実験装置として有用であることをアピールできた。その結果、隕石の大気圏突入模擬を目的とした実験のトライアルを東大柏風洞で行うなど、理学工学融合の新しい研究活動のきっかけを作ることができた。
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