研究概要 |
本年度は,まず多層膜コーティングプローブによるホールスラスタの壁面損耗量計測を行った.ホールスラスタの3つの作動パラメタである推進剤流量,放電電圧,磁場強度のそれぞれについて,損耗特性を調べ,さらに壁面損耗の空間分布も測定した.また,推力の異なる2つの推進機の損耗特性の違いについても検証した.これらの計測はすべて本手法の,高速,絶対値測定,高空間分解能を兼ね備えるというユニークな特徴を活かしたものである.また,測定法の信頼性向上のため,コーティング膜と通常のセラミック壁面材の結晶構造の違いによる損耗特性の相違の検証を行った.これにより,本計測法の絶対値測定における測定精度を評価することができた. 次に,数値解析による推進機寿命の模擬を行った.前年度まで開発を行なってきたプラズマ粒子シミュレーションコードを用いて,推進機内部のプラズマの状態の変化に伴う損耗量の変化を模擬した.この結果,上記の多層コーティング法による測定結果とよく一致する計算結果が得られた.さらに,計算された壁面損耗率にしたがって,放電室形状の更新を行うことで,放電室壁面が完全に損耗しきる状態まで,推進機寿命の模擬を行った.これにより,多層コーティング法による計測と組み合わせることで,推進機寿命を短時間で評価することが可能になった.実際に本手法を異なる作動条件や推進機設計に適応し,ホールスラスタの長寿命化のためには,強磁場領域を放電室出口付近に集中させること,磁力線の壁面に対する傾斜をなくすこと,などが効果的であることを見出した.また,損耗による放電室形状の変化が推進性能にも影響を与えうることがわかった.これらの知見は通常数千時間にわたる耐久試験を行なってはじめて得られるものであるため,非常に画期的な成果であるといえる.
|