本研究の目的は、宇宙太陽発電衛星の実用に向けた本格的な発送電パネルを完成させることである。そのために発送電パネルに必要な機能や仕様を明確化し、その要求を満たす発送電パネルを実現する。 前年度に、レトロディレクティブ方式によるマイクロ波ビーム制御システムを有する送電パネルを完成させ、2009年9月にトロントで開催されたInternational Symposium on Solar Energy from Spaceでデモンストレーションに成功した。このデモンストレーションに用いた9枚のパネルをハワイ島のマウナロア山に設置して、マウイ島のハレアカラ山との間でのマイクロ波ビーム制御実験を2010年7月に実施し、多くの有用なデータを取得した。160km離れたマウナロア山とハレアカラ山とのマイクロ波ビーム制御実験では、パイロット信号および送電用マイクロ波の受信レベルと位相変化を測定した。その結果、受信レベルが不安定で、マイクロ波送電には使用できない状態であることが判明した。その原因として大気によるスキャッタリング、海面からの反射、建物などのマルチパスなど多くの原因が想定され、実験後に検討を開始した。また、実用宇宙太陽発電衛星の場合、160kmに及び地上送電と異なり、大気層は10kmぐらいの厚さである。大気による影響は大きく異なることが予想される。この静止軌道の宇宙太陽発電衛星と地上との送電状況を実験するため、通信実験のために2006年12月に静止軌道に打ち上げられた技術試験衛星VIII型「きく8号」からの電波を用いて、大気の影響の測定を開始した。 最終目的である実用発送電パネルの実現のため、現在までに高効率増幅器を実現し、放熱効率の良いスロットアンテナの最適設計を進めている。次年度には完成させる予定である。
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