本研究の目的は、宇宙太陽発電衛星の実用に向けた本格的な発送電パネルを完成させることである。そのために発送電パネルに必要な機能や仕様を明確化し、その要求を満たす発送電パネルの実現を目指す。トロントの国際会議でデモンストレーションに成功したレトロディレクティプアンテナによる送電パネルを用いて、昨年度は、7月にハワイ島マウナ・ロア山とマウイ島ハレアカラ山の間の地上送電実験を行った。その結果、海面からの反射や大気等の減衰が予想以上に大きかった。そこで、今年度は静止軌道にある試験衛星ETS-8からの信号を用いて、大気層や電離層に垂直に入射された場合の影響を集中的に測定評価した。その結果、大気を水平に伝搬する地上間マイクロ波送電では減衰が大きく問題になるが、垂直入射なら大気層が薄いことから宇宙太陽発電衛星から地上へのマイクロ波無線送電には影響がないことが判明した。この観測により、実用宇宙太陽発電衛星の開発に向けた重要なデータを収得した。 トロントのデモンストレーションにより、宇宙太陽発電衛星用発送電パネルの機能が確立されたと考える。この機能を最大限に生かせる構造の検討を進めた。その結果、今まで開発していたスロット・アンテナでは、反対方向への放射を抑えるためのキャビティーが大きく、増幅器や分配器を入れるためには多層構造となり、重量の増加となる。新たに逆Fアンテナの開発に取り込み、さらに発展させて排熱効率の高い幅広い逆Fアンテナを開発することができた。パイロット信号用のアンテナも発送電アンテナ全面を反射鏡として利用するパラボラ・アンテナとした。このような改良により、発送電パネルの構造や配線が非常に単純化され、信頼性が高く、非常に軽量なパネルが実現した。これらの研究成果から、次の軌道実験への計画へと進める。この軌道実験が実用宇宙太陽発電衛星への大きなステップになると信じる。
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