研究概要 |
我々は,電気化学的な手法(イオンモデル)を採用し,実験装置内の海水の動きを数値計算している.電極板付近では,海水の電気分解が進み比較的大きな濃度勾配ができるため,拡散電流の効果が強く現れる.この現象を反映して,特定の条件で数値計算を行った場合,イオン濃度が流路の一部において非現実的な値をとる場合があることがわかった.数値計算に有限要素法を用いているため,メッシュの形状と細かさにこの原因があると考え,計算値のメッシュ依存性を調べた.この結果から従来型の正方形流路断面を持つ分離装置内の海水の流れを再現する最適なメヅシュの形とサイズを明らかにできたと考えている.実験面では,電気分解により発生する気泡を電極板から除去するため,断面の形状の異なる幾通りかの流路を作製した.しかしながら,装置を流れる電流が気泡発生により不安定になる現象を抑制することはできなかった.このため,流路を水平方向にした従来型の分離装置ではなく,海水が下から上に流れる鉛直型流路の分離装置を新たに作製した.この装置では電気分解で発生した気泡がスムーズに電極板から離れ,装置の通電電流が安定した.イオンモデルによる数値計算から,分離装置の基本性能は,磁場が印加され分離が行われる分離装置心臓部の形状や電流分布だけでなく,装置後方の海水配管形状や海水出口の境界条件に対しても非常に敏感であることがわかった.装軍・配管形状や,梅水出口の境界条件が,理論モデルと同一になる垂直湾流型分離試験プラントをあらたに作製し,汚水側と浄化側の海水流量の比の磁場依存性を計測した.得られた実験値は,イオンモデルから見積もられた値とほぼ同等であった.以上のことから,従来使われていた磁気流体力学(MHD)モデルで取り扱えていなかった電極板付近に存在する拡散電流の効果を考慮でき,分離装置内の海水の動きをより詳細に数値シミュレーションできる手法がほぼ確立したと考えている.
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