研究概要 |
本研究は,排出物規制海域では船舶の主推進機関が低負荷で使用され,頻繁な加減速も不要であることに着目し,舶用では前例がないPCCI(予混合圧縮自着火)燃焼によって,後処理装置や排気再循環などに依存しないNOxの大幅低減を目指してきた.小型高速機関のPCCI燃焼には夥しい研究例があるが,クロスヘッド式の大型低速2ストローク機関では,ストローク/ボア比が4超の縦長の空間で予混合気の形成が必要なこと,PCCI燃焼の最大の課題である,自着火時期の上死点近傍への保持を低速で実現する必要がある.本研究では近接2重噴射弁を用いて,初期に高く,時間とともに減少する噴射率を与える噴孔と,初期に低く,後期に高くなる噴射率を与える噴孔とを近接させ,各々の噴霧を重合させることで噴射方向を可変制御することにより,噴霧の壁面付着を回避しつつ良好な予混合気の形成を図る手法を提案し,平成22年度までの研究によりその効果を実証した. 平成23年度は,可視化急速圧縮膨張装置を使用した実機相当の燃焼実験に注力し,最終的な結論として,近接2重針弁の両噴孔に同時に矩形状噴射率を与えて噴射方向を固定した場合と,独立した噴射率を与えて噴射方向を制御した場合を比較すると,後者では未燃HCが大幅に減少し,COやNOx排出量も削減できることが確認された.前段階として,混合気の自着火時期の遅延化を,低セタン価燃料への転換,燃料の水エマルション化の2方策によって検証した.先ず,排出物規制海域用の低硫黄燃料として注目され,70%超の芳香族含有率を有するライトサイクル油(LCO)を適用することで,自着火時期を軽油比較でクランク角10度遅延できることを確認し,さらに軽油ではエマルション化の効果は微小であるのに対し,LCOでは質量比11%の水混入でも自着火時期を上死点近傍まで遅延できることを確認した.以上の研究成果により,舶用PCCI燃焼の実現に極めて有益な知見が得られたものと確信している.
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