研究概要 |
放射性廃棄物の処分システムには,陽イオン性核種の移行を遅延させる人工バリアが存在するものの,ヨウ素,塩素やテクネチウムなどの陰イオン性核種の移行を遅延させる効果は期待できない。一方,セメント系材料の主成分であるカルシウムシリケート水和物(CSH)は,構造が不安定であることが結果的に様々な核種を内包する能力を持つ。セメント系材料は,地下における処分場構築のために多量に用いられることから,それらを改良し,陰イオン性核種を安定化できれば,建設材料としてのセメントも核種移行に対するバリア機能を有することになる。本研究では,処分システムが地下水により飽和する環境を想定し,陰イオン性核種の安定化を促進するCSHゲルのCaOとSiO_2とのモル比(以下,Ca/Si比と呼称する)を実験的に探索し,そのメカニズムを明らかにすることを目的とする。 本年度は,陰イオン核種としてヨウ素酸イオンに着目し,陽イオン核種(Eu(III))と対比しながら,核種とCSHとの相互作用を,乾燥過程を経ることなく追跡した。その結果,CSH合成時にヨウ素酸イオンを添加する試料とCSH合成後にヨウ素酸イオンを添加する試料の双方ともに,Ca/Siモル比が1.0以下において,Eu(III)と同様,ヨウ素酸イオンとの強い相互作用を示した。これまで,乾燥状態のCSHとヨウ素との相互作用は,低いCa/Siモル比(<1.0)において著しく低下することが報告されていたが,処分システムの冠水後の状態において,セメント系材料に劣化に伴って生成する比較的Ca/Si比の低いCSHゲルも,ヨウ素酸イオンと強く相互作用し,核種移行の抑制に寄与することが示唆された。また,CSHの構造を把握するために,ラマン分光法によりCSHに及ぼすCa/Si比の影響を系統的に調べ,Ca/Si比が1.0以下においてSiO_2の重合が進むことを確認した。
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