1、インスリンの分泌の可視化:線虫インスリンINS-1が塩走性学習に重要な働きをすることを見出している。今年度の本研究では、INS-1がどういう信号を伝えるかの手がかりとしてINS-1の分泌の変化を定量化するために、まずINS-1::pHluorinを作製し分泌を観察した。しかしながら、学習条件においてもはっきりした分泌の変化は見いだせなかった。 2、ASERの人為的活性化:カプサイシン受容体VR1をASER神経に発現させてカプサイシンに対する応答を調べたが、カプサイシンに対するはっきりした応答は見られず実験の継続を断念した。 3、daf-18 PTENの機能と神経細胞の出力のスイッチング機構:通常の線虫は塩に寄っていくが、インスリン/PI3キナーゼ経路の機能が昂進したdaf-18変異体は塩を忌避する。daf-18の抑圧変異体として分離されていたegl-30Gqとgcy-22グアニル酸シクラーゼがどう関与するかを検討した。左右のASE味覚神経がどちらもASERまたはASELとして分化する各変異体を用いて調べたところ、daf-18変異体ではASER神経が忌避行動を引き起こしていることがわかった。一方、gcy-22変異体ではASER神経によるさまざまなイオンの受容能がほぼ失われていることがOliver Hobert研究室のChris Ortizらとの共同研究により明らかになり、daf-18;gcy-22二重変異体は、ASER神経が機能しないためにASELの機能により塩へ誘引されることがわかった。また、ASER神経でGq/DAG/nPKC経路が活性化されると無条件に(daf-18バックグラウンドでも)塩に誘引されることがわかった。感覚繊毛が欠損する変異体でASERだけの機能を回復させる実験により、誘引と忌避の切り替えの大部分は感覚神経としてASER単独で起こることがわかった。
|