被子植物の種子には以下の3タイプがある。1)有胚乳種子。2)無胚乳種子:胚(子葉)が、母体から直接資源を吸収するようになる。3)無胚乳種子:種子完成時には、胚による吸収のために胚乳は消失している。なぜ、このような3タイプが進化したのか。本研究では、資源吸収における雌雄の対立が3タイプの進化をもたらしたという仮説を提唱する。多くの被子植物では、胚乳のゲノム比は雌親由来:雄親由来=2:1である。そのため資源吸収において、雌親の要求が通りやすい状況にある。一方、胚のゲノム比は雌親由来:雄親由来=1:1である。したがって、胚による直接吸収が行われれば、雄親の要求がより通りやすくなりうる。そのため、胚による直接吸収が起きるかどうかに関して、雌雄の対立が生じうる。 ゲーム理論を用いて、上記の仮説が働くかどうかを調べた。受精胚珠の胚乳は、母体からの資源吸収を開始する。つづいて、胚による、胚乳からの資源吸収が起こりうる。種子成熟前に胚乳が完全に吸収された場合は、胚による母体からの直接吸収が起こる。こうした吸収速度には、雌雄由来の遺伝子がそのゲノム比に応じて影響する。胚乳による母体からの吸収・胚による胚乳からの吸収・胚による母体からの直接吸収のそれぞれには、過吸収成長による死亡コストが伴う。種子発芽にかかる時間が短くなるため、胚乳よりも胚に資源を貯蔵しておく方が有利であるとも仮定する。 解析の結果、以下のことがわかった。有胚乳種子は、胚による胚乳からの吸収および胚による母体からの直接吸収の死亡コストが高い場合に進化する。上記2)の無胚乳種子は、胚による母体からの直接吸収の死亡コストが低い場合に進化しうる。これら以外の場合は上記3)の無胚乳種子が進化しうる。
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