研究概要 |
2009年の新型インフルエンザの汎世界的流行や、2001年の英国における口蹄疫の流行と疫学行政による介入の例で明らかなように、空間明示的な疫学モデルは、流行がどのような速度で、どこを拠点に拡大していくか、そしてそれを防ぐための有効な手段がなんであるかを明確にする上で、なくてはならない道具である。たとえば,日本に感染力の強い病原体が上陸したとき,人の日常的な交通流動に乗って、上陸地からどこに流行が飛び火し、どこを経由してどれだけの早さで全国的な大流行に至るかを予測することは、きわめて重要である。本研究では、伝染病の時空間構造に大都市圏の交通流動のデータを適用することにより、病原体の流行動態を宿主の日常的な交通流動ネットワークの上に載せ,新型ウイルスが上陸した場合の流行過程を時間・空間明示的に予測する理論を構成した。 前年度までに交通流動ネットワーク上の伝染病流行モデル構築し、それを首都圏の通勤通学の交通流動データに適用して、伝染病が広がる条件、所定の駅利用集団への伝染病の到達時間、流行規模が、ネットワークのどのような特性に依存するかを明らかにしてきた。その結果、伝染病の流行の特性を決定するのは、ネットワークの地理的な配置ではなく、個人の通勤・通学における始点駅と終点駅のサイズの組の分布が極めて重要であることや、ある駅への伝染病の到達時間がその駅のサイズに関するベキ分布にしたがくこと、これらのシミュレーション結果は分岐過程を用いた解析的なモデルによってよく説明できることが分かり、これらの結果は国際誌への投稿を準備中である。 また、昨年度の宮崎県の口蹄疫流行のデータを用いて、農場の緯度経度、農場の家畜種と飼育頭数のデータを取り入れた「農場ベースの口蹄疫流行モデル」を作成し、シミュレーションによる解析や、パラメータの最尤推定を行った。この成果についても今年度中に国際誌へに掲載発表する。
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