研究概要 |
2001年の英国における口蹄疫の流行と疫学行政による介入の例で明らかなように、空間明示的な疫学モデルは、流行がどのような速度で、どこを拠点に拡大していくか、そしてそれを防ぐための有効な手段がなんであるかを明確にする上で、なくてはならない道具である。たとえば,日本に感染力の強い病原体が上陸したとき,人の日常的な交通流動に乗って、上陸地からどこに流行が飛び火し、どこを経由してどれだけの早さで全国的な大流行に至るかを予測することは、きわめて重要である。本研究では、伝染病の時空間構造に大都市圏の交通流動のデータを適用することにより、病原体の流行動態を宿主の日常的な交通流動ネットワークの上に載せ,新型ウイルスが上陸した場合の流行過程を時間・空間明示的に予測する理論を構成した。 本研究ては宿主のネットワーク構造として、大都市圏の交通流動のテータ(国土交通省による大都市交通センサスによる通勤・通学の流動センサス)を使用して伝染病の流行動態のコンパートメントモデルを構成した。病原体の流行動態を宿主の日常的な交通流動ネットワークの上に載せることにより、新興感染症が首都圏に導入された場合の流行過程を時間・空間明示的に予測する理論を構成することができた。初期感染者居住地をさまざまに変えたモンテカルロシミュレーションの結果、流行動態は交通流の地理的トポロジー的情報よりも、居住地駅と勤務地駅の利用者数のペアの分布が、感染症の流行規模や、大域的流行確率を決める主要なファクターであるという注目すべき結果を得た。また、ある勤務地に伝染病が到達するまでの待ち時間が、その勤務地駅利用者数でほぼ決まり、利用者数の冪則で与えられることも分かった。これらの結果は、新興感染症の防除策に利用する事が可能である。
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