研究概要 |
本年度の調査で得られた主な成果は,以下の通りである。 マダラツチカメムシとフタボシツチカメムシの繁殖行動:両種とも雌は地表に営巣し卵塊を保護,前者ではハルニレ,後者ではオドリコソウ属の種子を幼虫に随時給餌した。さらに,前者では孵化前に少量の栄養卵を生産すること,後者では孵化前と孵化後に栄養卵を生産することが明らかとなった。これらの適応的意義の検討は今後の課題である。 シロヘリツチカメムシの栄養卵生産の適応的意義:本種の雌親は孵化前と孵化後に栄養卵を生産し,幼虫の生存はこれら栄養卵に依存する。1令の間,孵化後栄養卵は半日ごとの明確なスケジュールで給餌される。この孵化後栄養卵の適応的意義を,操作実験によって検討した。孵化後栄養卵が利用できない条件では,未処理の種子を与えても幼虫の生存率は大きく低下した。一方,内果皮を取り除き胚乳を直接吸汁できる種子を与えると,栄養卵がなくても1令幼虫は生存可能だった。この結果は,孵化後栄養卵が種子を直接利用できない1令幼虫の代替栄養物であることを示している。さらに,雌親を取り除き,孵化後栄養卵を孵化前にまとめて与えた実験区と,雌親の生産スケジュールを模して人為的に栄養卵を与えた実験区を設けて,幼虫の生存・発育を比較した。その結果,前者では後者に比べて生存率が著しく低下し2令への脱皮が個体ごとにばらついた。半日毎の栄養卵給餌は,幼虫間の干渉型競争を緩和するのかも知れない。 雌親からの信号:フタボシツチカメムシにおいて,雌親が胚子発育の完了した卵塊を抱えながら断続的に体を振動させ,この振動がピークに到達する時に幼虫が同調的に孵化する様子が観察された。同様の振動は,近縁種の雌親が孵化後に栄養卵を幼虫に与える際にも観察された。この雌親の振動は幼虫に対する信号である可能性があり,その検討は今後の重要な課題である。
|