研究概要 |
本年度の調査で得られた主な成果は,以下の通りである。 シロヘリツチカメムシの孵化前栄養卵の適応的意義:本種の雌親は,幼虫の孵化前と孵化後に栄養卵を生産する。前者の適応的意義を操作実験で検討したところ,30%程の孵化幼虫は孵化前栄養卵だけの摂食で2令まで生存・発育可能なことが判明した。卵保護途中で雌の消失が頻発する場合,孵化前栄養卵は給餌を補償する意義を持つかも知れない。実際,保護中の雌親は捕食者による攻撃を頻繁に受けている可能性があり,捕食者の存在が孵化前栄養卵の生産に影響を与える可能性を示すデータも得られた。詳細の解明は,今後の重要な課題である。 栄養卵と種子給餌の状況依存的な相互作用:幼虫が孵化直後に栄養卵を全て消費するミツボシツチカメムシでは,消費した栄養卵量に応じて幼虫コンディションが変化し,その変化に応じて雌親の種子給餌努力も変化すると予想さる。孵化幼虫が利用できる栄養卵数を実験的に操作しこの仮説を検討したところ,栄養卵を除去した実験区では対照区や栄養卵を増やした実験区に比べて雌親による給餌種子数が明らかに増加した。この結果は,幼虫から雌親への状況依存的な餌乞い信号が存在すること,さらに雌親による栄養卵生産の調節によって給餌をめぐる親子間の利害対立が変化しうることを示すと考えられる。 親子間の信号の検出と機能の検討:フタボシツチカメムシとベニツチカメムシにおいて,孵化間際の卵を保護する雌親が卵塊に特異的なパターンで振動を与えることが明らかになった。雌親の与える振動を人工的に模倣する実験によって,この振動が幼虫の孵化を同調させること,さらに(後者では)最終的な孵化率自体にも影響を与えることが実証された。逆に,孵化間際の胚子が雌親に信号を送っている可能性も示され,この検討は今後の課題である。
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