研究概要 |
本年度の調査・実験で得られた主な成果は,以下の通りである。 親子間の利害対立を生む前提条件・保護コストの検出:ミツボシツチカメムシとフタボシツチカメムシを用いて,卵塊や幼虫の除去による人為的な保護期間の短縮が雌の生存と繁殖に及ぼす影響を検討した。その結果,保護を行わなかった雌は,保護を続けた雌に比べ産卵間隔が明らかに短縮した。この結果は,保護行動の生理的コストの存在を示唆している。さらにシロヘリツチカメムシを用いて,野外で標識再捕獲実験を行い,単独時と保護時の雌親に対する捕食圧を定量・比較した。その結果,単独時に比べて保護中の雌は捕食者の攻撃をより頻繁に受けており,死に至らない場合でも傷を負う確率の高いことが明らかになった。傷ついた雌は生理的寿命が短縮するこども判明し,保護行動が生態的コストを伴うことが明らかになった。 親子間の信号の検出と機能の検討:昨年度までにフタボシツチカメムシとベニツチカメムシで発見された孵化前の幼虫に対する振動信号に加えて,ベニツチカメムシでは,巣内に果実を持ち込む際に雌親が発音することが明らかになった。幼虫の採餌行動に対する効果など,雌親の発する給餌音の機能の検討は今後の課題である。一方,幼虫から雌親への信号の存在に関しては,実験的な検討が進まなかった。 雌親による転卵行動の発見:フタボシツチカメムシの雌親は,卵保護期間中に頻繁に卵を回転させることが明らかになった。地表の温度分布を野外で詳細に調査したところ,巣内の位置によってわずかな温度差が生じていることが示された。この温度差は,胚子の発育速度に影響し孵化の非同調をもたらす可能性がある。雌親の転卵行動は,巣内の僅かな温度差による孵化の非同調を回避するのかも知れない。孵化の同調性を介した給餌へめ効果を含め,その適応的意義の検討は今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から雌親の非致死的捕食経験に応じた栄養卵給餌の調節,胚子と雌親間の振動信号の授受,雌親の転卵行動など,研究計画段階では予想していなかった発見が続いており,最終年度はこれら新たに発見された行動の機能や分類群内の普遍性を検証することに力点を移す予定である。
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