研究概要 |
生態系のはたらきについての基本的理解を確立するための理論的研究を展開する。 第1に、生態系を構成する個々の生物は、置かれた環境に適応的に挙動を変化させる。これには自然淘汰による進化に加え、表現型可塑性、行動選択、遺伝子制御であるエピジェネテイックスなどのさまざまな機構がある。他方で、生物の存在が環境を変化させ、しばしば安定化する傾向がある。 第2に、森林伐採や漁業資源の乱獲、湖沼の水質維持など、ヒトの影響は生態系の動態を考える上に切り離せない。他方でヒトの意思決定には生態系のあり方が影響する。ヒトの意思決定と生態系のダイナミックスが分かちがたく結びついた系を調べる。今年度は、次の2テーマについて集中的に進めた。 1 樹木の一斉開花・結実の進化:森林の樹木はカエデなどのギャップ依存種を例外として大多数の樹木が広い範囲で同調して繁殖をするマステイングを行う。数年の豊作年には1度に多量の花をつけ結実し,それ以外の年にはほとんど繁殖が低い。申請者らは一連の論文で物質収支にもとづいたモデリングを行い、カオス結合系としてとらえられることを示してきた。資源消費係数の進化を、有限集団での進化ゲームの新しい解析法(fPIP)によって調べ、どのような環境でマステイングが進化するかを解明した。延長休眠をする種子捕食者であるゾウムシがマステイングを進化させる上に有効であることがわかった。 2 海藻の同形世代交代と異形世代交代の進化:海藻には半数体(n)と2倍体(2n)の世代が同じ大きさをする藻体をもつ同形世代交代のものと、半数体が大きくて2倍体がごく小さいノリのようなもの、逆に2倍体が大きく半数体がごく小さいワカメなどの異形世代交代のものがあり、ごく近縁のものでもこれらが混ざっている。この世代交代の異なるタイプを季節的に変動する環境のもとでの適応としてとらえる数学理論を展開する。
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