生態系のはたらきについての基本的理解を確立するための理論的研究を展開する。 第1に、生態系を構成する個々の生物は、置かれた環境に適応的に挙動を変化させる。これには自然淘汰による進化に加え、表現型可塑性、行動選択、遺伝子制御であるエピジェネティックスなどのさまざまな機構がある。他方で、生物の存在が環境を変化させ、しばしば安定化する傾向がある。 第2に、森林伐採や漁業資源の乱獲、湖沼の水質維持など、ヒトの影響は生態系の動態を考える上に切り離せない。他方でヒトの意思決定には生態系のあり方が影響する。ヒトの意思決定と生態系のダイナミックスが分かちがたく結びついた系を調べる。今年度は、次の2テーマについて集中的に進めた。 1 捕食者の存在によって被食者がたべられにくい膨れた形態に変化する表現型可塑性がオタマジャクシやミジンコなどでよく見られる。他方でサンショウウオには口をのサイズが大きな攻撃タイプが出現する。これらの表現型可塑性と進化的な適応が、捕食者と被食者の個体群動態にどのように栄養するかについて一連の理論的研究を遂行した。その結果、変動の振幅が片方に集中する現象、両種のフェーズの関係、可塑的な防御は頻繁にみられるが可塑的な攻撃はまれにしか報告されていない理由などを理論的に説明することができた。 2 島が大陸から切り離されたり、連続した森林の一部が周りの開発によって孤立したりといった状況において長い時間をかけて種数が減少するプロセスについての全く新しい公式を導いた。種数は時間とともに指数関数ではなく双曲関数で現象し、種数が多いときにはそれの2乗に比例した速度で喪失することなどを中立説にもとづいて証明した。島状の生息地での鳥類相の種数減少のデータと比較したところ、理論予測は幅広い範囲で成立することが確かめられた。
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