研究概要 |
本研究の目標は、蝶媒に適応したハマカンゾウと蛾媒に適応したキスゲを用いて、協調的にはたらく適応形質のセットが、ある状態から他の状態へと進化的にシフトする機構を解明することである。この目的のため、ハマカンゾウとキスゲのF2雑種を用いて、遺伝学・生態学・分子生物学的アプローチを統合した研究を進めた。 花色の遺伝的基礎を明らかにするために、アントシアニン合成系の酵素遺伝子の発現解析について、平成23年度は発現量の定量をより正確に行うため、リアルタイム定量RT-PCRを行った。その結果、アントシアニン色素の無いキスゲの花弁では、F3'H,ANS,3GT,RTの発現量が少ないことが明らかになった。 また、自然淘汰プロセスの実証研究を継続し、平成23年度は、ハマカンゾウ12株とF2雑種24株の混生集団におけるスズメガの訪花実験を行った。これまで、ハマカンゾウ24株F2雑種12株の混生集団で訪花された株を交換した場合、スズメガは赤花選好を示す結果が得られていた(平成21年度)。よって、スズメガは蜜報酬があり、かつ集団中で優占する花色を選好するという仮説を立て、実験を行った。その結果、花色に選好性はみられなかった。これは中間的な花色の花が全体の1/3を占めたためと考えられる。 これまでの遺伝学的解析と野外実験の実証データにもとついて、アゲハチョウ媒からスズメガ媒への進化プロセスのシミュレーションを行った。開花時間を決定する遺伝子座を2つ、誘引形質(花色)を決定する遺伝子座を1つとした。昼にアゲハチョウ、夜にスズメガが訪花するとし、雑種の開花時間の割合は、実証データ(Nittta et al.2010)にもとづいて推定した。送粉者の選好性は、花色の遺伝子型に依存するとした。シミュレーションの結果、開花時間の違いが自然選択及び生殖隔離の両方に効果のある形質であることが明らかになった。
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