情報伝達基本機構である二成分情報伝達系(以下TCSと略)は微生物に最も普遍的な環境シグナル検知・応答機構である。しかし、永い進化を経て植物においても環境シグナル検知・応答機構として重要な生理機能の制御に関わっていることが知られている。特に、サイトカイニンやエチレンなどの植物ホルモンに応答した情報伝達系や概日時計機構に必須の役割を担っている。本研究計画ではモデル植物シロイヌナズナだけでなく、モデルマメ科植物ミヤコグサや最初の陸上植物の子孫であるヒメツリガネゴケを対象としてTCSによる植物の高次機能統御における役割とその分子機構を包括的に理解することを目的とした。その結果、サイトカイニンの応答機構や概日時計機構に関して多くの新しい知見を得ることができた。本年度の最も主要な実績の具体的概要は以下のようである。 シロイヌナズナの胚軸伸長は日長条件により制御されており、短日条件では顕著な伸長促進か観察される。その分子機構には赤色光受容体phyBと概日時計に制御されているbHLH型転写因子PIF4(胚軸伸長促進因子)が重要な働きをしている。PIF4タンパク質は光条件下ではphyBにより分解される。一方、PIF4遺伝子は長日条件下では日中でのみ転写されるが、短日条件下では夜の終わりにも転写がみられる。この転写制御には日長変化を感知した概日時計が関与している。結果として、短日条件下(夜の終わり)にのみPIF4タンパク質が働くことで胚軸や葉身の伸長が促進される。このように外的日長条件と内在性PIF4概日リズムが符合することで短日特異的な胚軸伸長起こると考えられる。これが最近我々の提唱した外的符合モデル(External Coincidence Model)である。
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