被子植物の光受容体であるフィトクロム遺伝子ファミリーは、PHYA型とPHYB型の2グループに大別される。なかでも、PHYA型の代表格であるフィトクロムA(phyA)には機能上の顕著な特殊化がみられる。本研究は、phyAの特殊化の構造的な基盤を解明し、植物における光応答、ひいては植物のシグナル伝達機構全般への理解を深めることを目的とする。具体的には、シグナル増幅や抑制に関わるphyA分子上の部分構造を構造/機能解析により特定するとともに、これらの性質に関わるphyA以外の因子の同定を目指す。 昨年度は、phyAとphyBの間の様々なキメラ分子(合計16種)の生理学的活性を詳しく比較し、N-PAS領域が遠赤色光下の核移行に、明所での分解にはGAF領域が重要であることを明らかにした。本年度は、遠赤色光下における生理シグナルの発信について調べたところ、上記のドメインとは別に、GAFドメインのC-末端側に存在するPHYドメインが重要なことを見出した。さらに、PHYドメインは赤色光への感度にも大きく影響することが分かった。この結果、進化の過程でPHYドメインに生じた変化が、phyAの高感度化をもたらしたことが示唆された。この結果を受け、PHYドメイン内に様々なアミノ酸置換を導入した改変フィトクロム分子を構築し、これを発現する形質転換植物を作出しその性質を詳しく調べて高感度化に関わる構造の絞り込みをさらに進めた。また、プロテオーム解析によるphyAの特殊機能に関わる因子の同定を試みところ(奈良先端大・深尾博士らとの共同研究)、光照射後の早い段階で、タンパク質のリフォールディングに関わるような因子が複数検出された。
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