排卵は卵巣の重要な機能のひとつであり、この現象に関与する因子は多数知られている。古くから排卵制御因子として知られている分子にプロスタグランジン(特にPGE2)がある。プロスタグランジンに排卵誘導作用があることは、哺乳類から魚類にいたるまで、多くの動物を使用した実験により確認されている。脊椎動物に普遍的に観察されるその作用は、多くの生物学者の興味を引きつけ、生理的役割の解明は生殖生物学分野における重要課題として注目されてきた。しかし、プロスタグランジンの排卵誘導作用の分子機構は未だに解明されていない。 本年度においては、(1)排卵予定のメダカ濾胞におけるEP4b受容体mRNAの発現と内分泌制御について、及び(2)PGE2が排卵過程でもたらす作用について、の2点を解明すべき課題とした。その結果、以下のような成果を得た。 (1)排卵予定のメダカ濾胞におけるEP4b受容体mRNAの発現と内分泌制御について EP4b受容体mRNAの発現に関与するホルモンを特定するために、哺乳類のFSH、LH、hCG及びPMSGといったゴナドトロピンの効果を調べた。これらの中では、唯一、PMSGがEP4b受容体mRNAの発現を誘導した。また、メダカ由来のゴナドトロピン(FSH及びLH)をリコンビナントタンパクとして作製して作用を調べたところ、メダカEP4b受容体遺伝子の発現誘導はLHによってのみ起こり、EP4b受容体遺伝子が排卵関連遺伝子であることが示めされた。 (2)PGE2が排卵過程でもたらす作用について PGE2がその受容体であるEP4b受容体に結合した時に引き起こされる細胞内現象として、細胞内cAMPの上昇、その後に、単量体GタンパクRhoAの活性化、ROCKキナーゼの活性化が起こることが、それぞれの特異的阻害剤を駆使した実験により明らかになった。これらの一連の反応が、最終的に、細胞運動等に関与するアクチンフィラメントの細胞内ネットワークの変化をもたらし、排卵に至らしめると考えられた。
|