申請者は、昆虫が学習した行動を遂行するためには、学習した内容の想起が必要であることを明らかにした。これは、昆虫の学習行動が一種の「条件反射」であるとの従来の説に反し、哺乳類の学習において想定されている「認知的」な過程が昆虫の学習にも関わることを示唆している。この現象を説明するために、申請者は新たな学習モデル、すなわちMizunami-Unokiモデルを提案した。このモデルの検証とその神経基盤の解明が本研究の目的である。 この学習モデルからの注目すべき予測の1つは、学習成立後も訓練を繰り返すと、習慣形成と呼ばれる現象がおこることである。すなわち、過剰な訓練をおこなうと、記憶テストの前にオクトパミン阻害剤を投与し学習内容の想起が出来ないようにしても、記憶の読み出しが妨げられなくなると予測される。本年度はこの可能性についての検証実験を行った。 フタホシコオロギに1セッション2回の学習訓練を8時間以上の間隔をあけて3セッション繰り返すと、記憶テスト前にオクトパミン阻害剤を投与しても、記憶の読み出しが妨げられないことが分かった。すなわち訓練により長期記憶が生成されたのち、さらに同じ訓練が繰り返される、これが3回おこると、学習内容の想起なしに学習行動が遂行されるようになる、すなわち習慣形成が起こるのである。従来、連合学習における習慣形成はオペラント条件付けにのみでおこると考えられていた。本研究により、習慣形成が古典的条件付けにおいても習慣形成が起こることが始めて明らかになった。
|