研究概要 |
カイコガのフェロモン源探索行動を生成する神経機構の解明を目的として、嗅覚系1次中枢である触角葉から前運動中枢である側副葉にいたるフェロモン情報処理神経回路の構造と機能の解析を行った。 まず、蛍光デキストランを用いた順行性染色法によるマスステイニングを側副葉に適用し、フェロモンの情報が前大脳デルタ領域からsuperior medial protocerebrumと呼ばれる領域を介して側副葉に伝達されることを明らかにした。さらに、デルタ領域構成神経と一般臭の情報処理に関与する側角構成神経の投射領域が異なることを見出し、フェロモン情報と一般臭の情報が高次中枢においても異なる経路で処理される可能性を示唆した。 並行して、フェロモン源探索行動でみられるジグザグ行動を制御する下降性介在神経のフリップフロップ活動の生成機構を調べるために、側副葉構成神経について細胞内記録および細胞内染色を行い、形惣から3つのタイプの片側性神経と3つのタイプの両側性神経を同定した(Iwano et al., 2009)。 また、キノコ体でのフェロモン情報表現の解析に向けてキノコ体のケニオン細胞で発現するcAMP依存性キナーゼのプロモーター下で蛍光タンパク質を発現する遺伝子組換え系統の作出を試みた。組換え系統は得られたものの、目的とする領域での蛍光タンパク質の発現は検出できなかったため、プロモーター領域を再検討する必要性が生じた。 上記に加えて、本研究の成果に関連して、原著論文を2編(Naka jima et al., 2009, Fujiwara et al., 2009)、昆虫の嗅覚情報処理機構を考察した総説、図書を計5編発表した。また成果の一部は、日本比較生理生化学会、国際嗅覚味覚シンポジウムなどの国内外の学会の学術会議において報告した。
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